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ご意見ありがとうございます

■古田雄介さん■

ワクワクする切り口ってのは確かにある
~メディアファクトリー新書のレビューを通して


 どんなジャンルであれ、その道ウン十年 の専門家の話っていうのは、素材としてはほぼ間違いなく面白い。でも、語り手が素人にとっての面白いポイントを把握していないと、専門用語や業界内の定説 みたいな“アク”が前面に出てきて、一部の人しか楽しめない代物になってしまう。逆に、素人の興味を増幅させるように意識して料理してくれれば、マニアッ クな題材でも万人がワクワクするような作品に仕上がる。

 メディアファクトリーは、そういう切り口で語っている本がけっこう多くて昔から注目していた。そして先日、幸運なことに、同社から新書をレビューする「ご意見番通信」参加の機会をいただいたので、今後は機をみて同社の新書レビューを書こうと思う。とりあえず、今回は3冊。

●『事情のある国の切手ほど面白い』/郵便学者 内藤陽介

  切り口の妙でワクワク感を増幅させる典型例がこれ。僕は切手収集の趣味はないし、世界情勢も関連書籍を何冊も読んで追いかけるほどには興味がない。それで も、「国家レベルのデリケートな事情がつまった切手」の話は聞きたくなってしまう。そのエピソードが200ページ足らずのなかに、63連発で収納されてい る。ひとつの切手につき適度な濃さの情報がつまっているので、硬派なトリビアを貪り喰う感じでサクサク読ませてもらった。満足。

 ただ、 少し残念なのは、筆者である内藤陽介氏の主義主張がたまに煩わしく感じるところ。特に、東アジア諸国とのエピソードでは、客観性よりも保守派の日本人とし ての立場で語られる傾向が強かった。そりゃ気持ちは分かるけど、この本のなかではタイトルのとおり、切手に隠れた諸国の事情を「面白がる」姿勢を徹底して ほしかったかな。たまに憤慨しちゃっているのは、もったいない。

 まぁ、「ちょっと偏屈な先生が教鞭をとる面白い授業」という感じで、少し距離を置いて読めば、すごく楽しめる一冊だと思う。


●『沈没船が教える世界史』/水中考古学者 ランドール・ササキ

  いっぽうで、フラットな視点で世界の断片を教えてくれるのが、こちら。世界各国の沈没船から、歴史をたぐる水中考古学者のランドール・ササキ氏による一冊 だ。水中考古学自体、「沈没船」という一般的には珍しい題材と「世界史」というメジャーな題材を結びつける、魅力的な切り口の学問といえるが、その面白み を前面に出して構成しているのが嬉しい。

 特に世界各地の沈没船を紹介する1~3章までは、地道なサルベージ作業の描写のあとに、拾い上 げられた数百年前の食器や胡椒などの積荷の意義と背景を解説し、そこから世界史の裏付けや新事実の証明に持っていくという、読者にとって一番カタルシスを 感じやすい構成がベースになっているので、誰でも楽しめるはず。そこから4章の「沈没船発掘マニュアル」という少し専門色の強い内容に入り、ラストの5章 は水中考古学者としての筆者の主張が盛り込まれる流れだが、3章までで沈没船の魅力にどっぷりはまっていたら、エンタメ色が薄れていく最後まで抵抗なく読 めると思う。

 文体や内容にクセがないので、自分の知らない学問の世界を覗いてみたいというニーズを満たしたいなら、かなりオススメかな。


●『働かないアリに意義がある』/進化生物学者 長谷川英祐

  最後は、かなり控えめにビジネス書的な視点を加えた一冊。タイトルから、アリや蜂などの集団で生活する社会性生物の生態を取っかかりにして、人間社会での 様々な生き方を説く内容かなと思ったけど、まったく違った。あくまでメインは社会性生物。彼らの挙動や生態の面白みを真正面からガツンと読ませる構成に なっている。その太い柱の周辺に、たまに申し訳程度に「我々の社会に置き換えると~」的なビジネス書色がみられるくらいだ。

 ビジネス書をうさんくさく感じる僕としては、この予想の裏切りは爽快だった。教訓やライフハックの類はいらない。知識欲だけ満たしてくれればいいんだよね。

  そして、専門家が書いているだけに、本書からも濃い知識がサクサク入ってくるから心地良い。仲間と比べてサボる働きアリや、仲間を出し抜いて繁殖しようと する“タダ乗り”なカビみたいに、集団のなかで一見非合理な挙動をする奴らにも、ちゃんと存在の理由がある。それが筆者自身の実験結果や信じるに足る学説 を引用して説明されているので、説得力がすごい。この本も最終章近くは学術色が強くなるけど、導入からひとつ一つ「なるほど」と相づちを打っていけば、 まったくの素人でもラストまで楽しみ尽くせると思う。

(出典:古田雄介のブログ 2011年10月4日)

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